予防原則

健康や環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも規制措置を行う、というのが予防原則です。 

がんや生殖異常など健康被害が懸念される場合に、原因の可能性がある有害物質の製造や使用を制限することは予防原則に基づく規制ということになります。

典型的な事例がREACH規則やRoHS指令で規制されているフタル酸エステル類です。 フタル酸エステル類は発がん性や生殖毒性が疑われており、EUでは早い時期から規制を段階的に強化してきました。現在、EUでは電気製品を始めとして輸送機器から家具、衣料、雑貨などの日常品まで広く含有が制限されています。一方で、日本では子供用品など一部を除いてフタル酸エステル類の製品への含有について特に制限はされていません。

科学的な因果関係の証明や社会経済的な便益も考慮する必要があるため、規制の可否について一概に判断するのは難しいのですが、製品ユーザーの安全面を考慮した場合に予防原則は妥当であるように感じられます。

新型コロナウイルスの感染がイタリアで急拡大している中、隣国スロベニアとオーストリアがイタリアとの国境封鎖を発表しました。これも予防原則にもとづく対策かもしれません。一方で、フランスのマクロン大統領はこの国境封鎖に異を唱えています。EU加盟国間には厳格な国境管理はありません。そのことから実際の効果を疑問視していることもあるのでしょうが、「人と物の域内での移動の自由」のEU原則に反することも理由であると考えられます。

予防原則の考え方自体に対して否定的な意見は少ないと思われますが、実際に運用するのは難しい状況の場合も多いようです。

(長谷川 祐)