製品含有化学物質や環境情報の管理において、新たなキーワードとして注目されている「CMP(シーエムピー)」。
これまでのchemSHERPAやIMDSといったツールと何が違うのか、なぜ今新しいプラットフォームが必要なのか、疑問に思われている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、公開された説明会資料をもとに、CMPの概要、導入の背景、そして実務がどう変わるのかについてわかりやすく解説します。

CMP(Chemical and circular Management Platform)の概要

CMP(Chemical and circular Management Platform)とは、日本語で「製品含有化学物質・資源循環情報プラットフォーム」と呼ばれ、サプライチェーン全体で化学物質情報や資源循環情報を伝達・管理するための新たな仕組みです。

これまでは、chemSHERPAなどのファイルをメールで送受信する「ファイル交換型」が主流でしたが、CMPは「プラットフォーム接続型」へと進化します。
化学品メーカーから最終製品メーカーまでがシステム上でつながり、信頼性の高い情報をスムーズに伝達することを目指しています。

なぜ今、CMPが必要なのか?

CMPが導入される背景には、世界的な規制強化と資源問題、そして情報の安全保障という3つの大きな理由があります

1. グローバルな製品環境規制の高度化

欧州を中心とした規制は年々厳しくなっています。
従来のELV、RoHS、REACHに加え、ESPR(新エコデザイン規則)などの新規制が登場しており、製品の環境情報を包括的に開示するDPP(デジタルプロダクトパスポート)への対応が迫られています。
CMPは、こうしたグローバルな規制動向に対応するための基盤として設計されています。

2. 資源循環(サーキュラーエコノミー)への対応

多くの鉱物資源が今後100年以内に採取困難になると予測される中、資源を循環させる仕組み作りは待ったなしの課題です。
CMPは有害物質の管理だけでなく、リサイクル材の含有情報やリサイクラーへの情報伝達など、資源循環(サーキュラーエコノミー)に必要な機能も備えています。

3. 日本の産業情報を守る「ウラノス・エコシステム」

欧米では産業データを自国や地域内で囲い込む動きがあります。
これに対し、日本は「ウラノス・エコシステム(Ouranos Ecosystem)」という企業や業界を超えたデータ連携圏を構築し、日本の情報安全保障を確保しようとしています。
CMPはこのウラノス・エコシステムのアーキテクチャに準拠しており、日本の産業情報を守りながらグローバルと連携することを目指しています。

CMP導入で何が良くなる?実務のメリット

CMPを導入することで、これまでの「バケツリレー式」の情報伝達で発生していた多くの課題が解決されると期待されています。

再調査依頼からの解放

これまでは規制物質が追加されるたびに、川下企業から川上企業へ「再調査」の依頼が殺到していました。
CMPでは、コンソーシアムから規制変更の一斉通知が行われます。
当該物質が含まれている場合は、システム上で自動的に「含有あり」などのフラグ情報が更新・伝達される仕組みになるため、都度の再調査や問い合わせ対応が大幅に削減されます。

一度の入力でサプライチェーン全体へ伝達

「一度入力したら、それが伝達される」がCMPの基本思想です。
これまでは顧客ごとの専用様式への転記や、ファイル作成の手間が発生していましたが、CMPの中で情報を生成・伝達することで、入力工数や転記ミスの削減が可能になります。

営業秘密(CBI)の保護

成分情報の開示において、すべてをオープンにするのではなく、電機・電子や自動車といった各セクターのルールに応じた適切な開示レベルを選択できます。
これにより、自社の重要情報(CBI)を守りつつ、コンプライアンスに必要な情報だけを顧客に伝えることが可能です。

chemSHERPAや既存システムはどうなる?

chemSHERPAからの移行

当面の間は、CMPとchemSHERPAの並行運用が想定されています。
しかし、chemSHERPA単体では情報の自動更新がされないため、データの価値は徐々に下がっていきます。コンソーシアムでは、chemSHERPAで蓄積した情報資産を活かしつつ、早い段階でCMPへ移行することを推奨しています。

自動車業界(IMDS/車載PF)との共存

自動車業界における認証業務(IMDS等の利用)は継続されます。
CMPは主に、法規制変更時の影響調査や、化学品・素材メーカーから部品メーカーへの迅速な成分伝達などに活用され、既存の車載PFと役割分担しながら共存していく方針です。

今後のスケジュール

2026年4月から、一般ユーザーを対象とした大規模実証(お試し利用)が開始される予定です。
その後、2026年9月から本格的な有償利用がスタートする計画となっています。

CMPは、単なる事務効率化ツールではなく、将来の製造業が生き残るための重要なインフラと言えます。早めに情報収集を進め、自社の対応方針を検討していくことが重要です。